恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、ゆっくり、首を横に振った。


〈もう、決めたことだから〉


「待てって。決めたって……おれは何も聞いてねんけ!」


そう言って、健ちゃんは便箋を拾った。


「ここにも書いてある! ふたりで話し合って決めろって、書いてある!」


〈健ちゃん〉


わたしが顔を扇いでも、健ちゃんは無視をして、両手を乱暴に動かした。


「そんなに東京に行きたいのか?」


わたしは頷いた。


本当は、行きたくないよ、健ちゃん。


〈行きたい。早く、この町を出たい〉


「でも、短大卒業してからでも遅くねんけ。何も今すぐ行かなくても」


わたしは、強く、健ちゃんを指差した。


〈健ちゃん!〉


健ちゃんがハッとして、手の動きを止める。


健ちゃん。


ごめんなさい。


勝手にひとりで決めて、こんなふうにしてしまって、ごめんなさい。


わたしは必死に両手を動かした。


ごめんなさい。


でも、仕方なかった。


こうするしか、方法がなかったの。


〈もう、これ以上、健ちゃんに迷惑をかけたくない。健ちゃんの重荷になりたくない〉


健ちゃんが肩をすくめた。


「迷惑? おれがいつ、そんなこと言った? 一度も重荷だと思った事はねんけ」


〈でも! 必ず、この先、わたしは健ちゃんの重荷になる。その日は、必ず来る〉


「真央!」


健ちゃんが、大きな口でわたしの名前を呼んだ。