恋時雨~恋、ときどき、涙~

「真央?」


悲しそうな顔をして、健ちゃんが覗き込んでくる。


でもね、健ちゃん。


去年の夏と、今は、違うんだよ。


もう、あの時には戻れなくなっちゃった。


だから。


わたしはそっと、髪飾りを外した。


それを、健ちゃんの手のひらに置く。


〈それ〉


両手のひらを上にして差し出したわたしを見て、健ちゃんは愕然とした表情を浮かべた。


〈返す〉


「……返すって……何で?」


出逢ったあの夏を、健ちゃんに返します。


だから、わたしと出逢う前のあなたに戻ってください。


「ちょっと待て。全然、話が見えねんけ」


そう言ってソファーに座り込んだ健ちゃんに、わたしはお母さんから送られてきた封書を差し出した。


便せんに目を落とした健ちゃんの表情は、みるみるうちに歪んでいった。


そしてハッと顔を上げて、健ちゃんはわたしを見つめた。


「あの荷物……真央、お前……」


わたしは頷いた。


〈わたし、東京へ行く。この部屋を出る。この町を……出る〉


健ちゃんの手から便箋が離れて、フローリングに舞い降りた。


健ちゃんが立ち上がる。


「ちょっと待て。だって、まだ短大……東京って……だって……」


〈健ちゃん〉


「……何考えてるんけ」


健ちゃんが、わたしの肩に掴みかかってきた。