この世で、一番暢気で一番幸せな生き物は、人間だと思う。







5月28日。


昨日。


カレンダーの日にちを、指先でなぞった。


5月29日。


今日。


5月30日。


明日。


なぞりながら、わたしはため息をはいた。


5月……31日。


明後日。


いよいよだ。











人はなぜ、失ってからじゃないと、その大切さに気付けないのだろう。


失ってからでは遅いと分かっているはずなのに。










6月1日で指先を止めて、わたしは息を飲んだ。


早いな。


あと、2日か。


左手のそれを少しだけ強く握った。










人はなぜ、後悔する生き物なのだろう。


大切なものの大きさ重さに気づいて、後悔する。


後悔したって、その時はもう元には戻れなくなっているのに。


それを分かっているくせに。


だから、人間は暢気だと笑われてしまうのに。


そんなのは、ちっとも幸せじゃないのに。


それを、分かっているくせに。







わたしは左手を見つめて、奥歯を噛んだ。


一枚の薄っぺらい、紙切れ。


たった一枚の紙で、わたしは全てに終止符を打とうとしている。


発車時刻。


8時4分。


行き先。


東京、上野駅。


新幹線の片道切符は、短大の帰りに買ってきた。