恋時雨~恋、ときどき、涙~

この街へ残って、健ちゃんのそばにいるか。


東京へ行くか。


この相談は、健ちゃんが退院して落ち着いてから。


それからでも、遅くは……ないよね。


健ちゃんが退院して、落ち着いてから、それからでも遅くはない。


そう、思っていた。


でも、神様はわたしたちにそんな時間さえ与えてはくれなかった。


じきに5月が終わろうとしていた。


もうすぐ、この街に雨の季節が訪れようとしていた。














ついに、その日が来たのは健ちゃんの退院を控えた前日の、黄昏時刻だった。


16時。


天井のランプがくるくる回って、点滅した。


ドアを開けると、優しい笑顔がそこにあった。


「しーと、ケンカしたんだって? 何があったの?」


〈ケンカじゃないけど、ちょっと〉


わたしは肩をすくめた。


順也が膝の上に乗せていた白い紙箱を指差した。


「ケーキ、買ってきたんだ。食べながら、仲直りの作戦会議でもしよう」


ケーキのこと、しーには秘密だよ。


ずるいってすねるからね。


そう言って、順也は優しい優しい笑顔をした。