恋時雨~恋、ときどき、涙~

目の前を、数人の看護師さんがストレッチャーを押して、足早に通り過ぎて行った。


そのあとを、健ちゃんのお父さんとお母さんが追い掛けて行く。


「真央」


静奈の手が、わたしの顔を扇ぐ。


わたしはその手を無視した。


最低。


わたしは、最低だ。


耳が聴こえなくても真央は真央だと言ってくれる健ちゃんがいて。


いい気になっていた。


優しい兄のような幼なじみがいて、いつも笑って手を差し伸べてくれる親友がいて。


いつも、さりげなく背中を押してくれる友達がいて。


わたしは甘えるばかりで。


お母さんの手術が成功して。


大好きな人と未来を約束して。


うまく行き過ぎて、わたしは麻痺していたのだ。


調子にのっていたから、こうなってしまうんだ。


シンデレラになんか、なれっこないのに。


そんなこと、分かっていたはずなのに。


現実はいつも、目の前にあるのに。


そんなことでさえ、忘れていたなんて。


わたし、一体、何をしているんだろう。


いつだったか、果江さんが言った言葉が、頭をぐるぐる回り続けていた。


今はうまくいっていても。


いつか、必ず。