恋時雨~恋、ときどき、涙~

誰が、倒れた健ちゃんに気付いていた?


誰が救急車を……呼んだ?


わたし、一体、何をやっているんだろう。


何をいい気になっていたんだろう。


ばかみたい。


一緒に生活をしているくせに、誰よりもいちばん近くにいたくせに。


いちばん近くにいても、わずかな物音にも気付くことができないんじゃ、意味がないのに。


近くにいても、いちばん遠くにいるのと同じだ。


何もできなかった。


わたしって、どれくらい無意味な存在なのだろう。


ばかみたい。


ばかみたい!


悔しくて口を一文字に結んでうつむいていると、白くてきれいな手が、そっとわたしの両手を包み込んだ。


「真央さん」


顔を上げると、優しい目をした健ちゃんのお母さんだった。


「びっくりさせてしまったわよね。ごめんなさいね。怖かったでしょう?」


自分を責めないでね、と健ちゃんのお母さんの唇が動く。


なんて読みやすい唇なんだろう。


違和感を覚えた。


まるで、以前から、聴覚障害者に対する話し方に馴れているような動きだ。


「ごめんなさいね」


謝らなければいけないのは、わたしの方だ。


わたしは必死に首を振った。