恋時雨~恋、ときどき、涙~

静奈に「ありがとう」を伝えなきゃいけないのは、わたしなのに。


静奈が助けてくれたのに。


大好きな親友から、わたしは目を反らしてしまった。


わたしは、大好きな静奈に、嫉妬した。


様子を伺うように顔を上げると、静奈は悲しそうに目を伏せてうつむいていた。


わたしのせいだ。


わたしが静奈を傷つけてしまったんだ。


「何言ってるの」


健ちゃんのお母さんが、うつむいた静奈の肩を優しく撫でる。


静奈になりたかった。


「静奈さんが救急車を呼んでくれたから。あなたが居なかったら」


健太はもっと苦しんでいたかもしれない。


そう言ってわたしを見た健ちゃんのお母さんは、がっかりした顔をして肩を落とした。


悔しかった。


悲しくて、悔しかった。


もし、あの時、静奈がアパートに来ていなかったら。


洗い物が終わるまで、わたしは何も気づかなかった。


違う。


気づかなかったんじゃない。


気付きたくても、気付けなかったのだ。


わたしの耳は……わずかな音も拾うことができないから。


静奈が来ていなければ……。


急に、恐ろしくなった。