恋時雨~恋、ときどき、涙~

「私ですか? ……長澤静奈です……けど」


わたしの手を何の躊躇もなくパッと離して、健ちゃんのお父さんは静奈に微笑んだ。


無性に、さみしくなった。


「静奈さん、ありがとう」


「えっ?」


「救急車を呼んでくれたんだってね」


静奈が一瞬、わたしを見て気まずそうにした。


「ええ……はい」


その瞬間、きっと、わたしの存在は消えた。


健ちゃんのお父さんとお母さんの中で、わたしの存在は消えた。


まるで、最初からわたしなんか居ないみたいだった。


健ちゃんのお母さんはわたしには見向きもせず、真っ直ぐ静奈の元へ行き、静奈の手を握った。


「静奈さん、ありがとう。何てお礼を言ったらいいか」


静奈を見つめるその目は、とても優しかった。


わたしは、初めて、静奈に嫉妬した。


「いえ、私は……別に」


と静奈は都合悪そうにわたしを見た。


静奈までそんな目で、わたしを見ないで。


やめて。


わたしはあからさまな態度で、静奈から目を反らした。


最悪。


最低だ。


静奈は、何も悪くないのに。


一番、何の役にも立てなかったのは、わたしなのに。