恋時雨~恋、ときどき、涙~

頷くことも、首を振ることもできなかった。


肯定も否定もできない。


ただ、うつむくしかなかった。


胸が痛い。


健ちゃんのお母さんの言う通りかもしれない。


健康な健ちゃんと、障害を持つわたしに、保証された未来はあるのかな。


そう思うと、顔を上げることができなかった。


うつむいていると、肩を叩かれた。


「どうした?」


顔を上げると、健ちゃんが微笑んでいた。


「帰るんけ」


健ちゃん。


わたしたちに、未来は、ある?











健ちゃんのお父さんとお母さんとは、店先で別れた。


今日の月は、霞んで見える。


星はひとつも輝いていない。


もうすっかり暗くなった道を、わたしはうつむいて歩いた。


耳が聴こえない真央さんと、健康な健太に、未来はあるのかしら?


あの紅い唇が、ずっと、頭の中でぐるぐる回り続けていた。


さり気なく、健ちゃんが手を繋いできた。


でも、握り返すことができなかった。


顔を上げることでさえ、できない。


洞窟のような空っぽの心に、不快な風が吹き抜けて行った。


ただ手を引かれるまま、うつむいて歩き続けた。


しばらく歩き続けていると、健ちゃんが立ち止まった。


その反動で、わたしは顔を上げた。


「やっと顔上げた」


健ちゃんが、向こうを指差して笑う。


「少し、道草して行こう」