恋時雨~恋、ときどき、涙~

「何があっても、おれの気持ちだけは信じて欲しい」


それが、条件だった。


スーツをびしっと着直して、健ちゃんはわたしの手を取り、


「すみませんでした」


と店員さんに頭を下げた。


「席へご案内致します」


店員さんに案内されて中に入ると、オリーブオイルとこうばしい香りが漂っていた。


「どうぞ。こちらのお席になります」


店員さんが通してくれたのは、レースのカーテンで仕切られた、いちばん奥のテーブルだった。


「もう来てたのか。ごめん、待たせて」


健ちゃんが、カーテンの奥に向かって笑った。


「真央」


健ちゃんに手を引かれる。


わたしは大きく深呼吸してから、震える足を一歩前へ出した。


健ちゃんの唇が動く。


「この子が、武内真央。おれの彼女だんけ」


向かって左から、健ちゃんのお母さん、お父さん、そして、弟さんが座っていた。


三人の視線が、一気にわたしに向けられる。


わたしは慌てて会釈をした。


どうしよう。


どうしよう。


もう、緊張なのか何なのか分からないほど、わたしは焦った。


その時、肩を叩かれて顔をあげると、


「真央さん」


健ちゃんとそっくりな目元を緩めて、お父さんが微笑んでいた。


「そんなに固くならないで」


健ちゃんのお父さんは、ゆっくりと大きな口で言ってくれた。


「一度、お会いしたいと思っていたんだ」


そして、覚束無い動きで両手を動かした。


わたしは、固まってしまった。