恋時雨~恋、ときどき、涙~

ぽかぽか陽気で、ワンピース一枚でも全然寒くなかった。


それはきっと、繋いだ手が温かかったからなのかもしれない。


わたしと健ちゃんは時々立ち止まって空を見上げたり、公園に立ち寄ったり、道草をしながら30分ほど歩いた。


到着したところは、賑やかな駅前。


百貨店とファッションビルの間の狭い路地をくぐると、そこにこじゃれたイタリアンレストランがあった。


小さなランプに、ぼんやりと明かりが灯っている。


路地を一歩出ると賑やかなのに、ここはひっそりしていて別世界みたいだ。


こんなところに路地があって、こんなお洒落なレストランがあったなんて。


知らなかった。


手入れのいき届いたガラス窓から、こっそり店内を覗いてみる。


ほの暗い照明と、アンティークなムードが漂う不思議な雰囲気。


お客さんはまばらで、がらんとしていた。


店先に立てかけられてある小さな黒板に、白いチョークで掛かれた文字。


【本日のディナー】


タコとオニオンのカルパッチョ

イベリコブタとクレソンと水菜のサラダ

特製ミネストローネ

トマトとバジルの冷製パスタ


ティラミス


キリマンジャロブレンドコーヒー



いつもよりおめかしをして良かったと思った。


店内にいる少ないお客さんたちがみんな、正装だったからだ。


健ちゃんに肩を叩かれてハッとした。