恋時雨~恋、ときどき、涙~

広い広い公園をうめつくす、桜の木。


屋台がずらりと立ち並び、おいしそうな香りが、春風と一緒に漂ってくる。


わたしや静奈でさえ歩きにくいのに、順也は人波を上手にかわして車椅子を走らせる。


静奈が、わたしの肩を叩く。


「すごい人だね。こんなに混雑してると思わなかった」


と静奈は苦笑いして、額ににじむ汗をしきりに気にしている。


まだ春なのに、立っているだけで汗ばむほどの陽気だ。


〈土曜日だからかな〉


わたしはワンピースの袖を捲り上げて、空を見上げた。


春というより、この暑さはもう初夏のようだ。


青く澄んだ空を、早足で流れる白い雲。


雲の隙間から、きつい陽射しがさしてくる。


「真央」


静奈が、わたしの顔を扇ぐ。


「順也が呼んでる」


見てみると、屋台の前で順也が手を振っていた。


その笑顔は満開の桜に見劣りしないほど、優しくて穏やかで。


珍しく子供のようにはしゃぐ順也を見て、来て良かったと思った。


あの事故以来、こういうお祭りに来て、順也は楽しくて仕方ないのかもしれない。


順也が唇と両手を同時に動かす。


「しー! 真央! 早く来て!」


「もー。なんであんなに元気なの。順也って、意外と子供だったんだ」


なんて言いながらも、行こう、とわたしの手を引いて駆け出した静奈もすごく楽しそうだ。


順也のところへ行くと、甘い匂いが立ちこめていた。