恋時雨~恋、ときどき、涙~

嵐のせいやない。


嵐は何も悪くない。


きっと、幸はそう言ったんじゃないかと思った。


嵐さんのお母さんが、目を潤ませながら微笑んだ。


「嵐はどあほうや」


そう言って、彼女は泣き出してしまった。


優しい手のひらが、幸の痩けた頬を包み込む。


「こんなええ子置いて行ってまうなんて。どあほうにも程があるわ……なんて子や」


バカ息子やわ、そう言った瞬間、幸は嵐さんのお母さんの胸に飛び込んだ。


静奈がぐっと唇を噛んで、幸の声をわたしに伝えてきた。


「ほんまやわ! この際だから、言わせてもらうで。おばちゃんには悪いけどな」


わたしは、静奈の両手を見つめながら、幸の関西弁を重ねた。


バカ息子やわ!


どあほうやで!


嵐はどあほうや!


「でも」


と静奈が手のひらを返すジェスチャーをしてきた。


静奈の両手を見つめて、わたしはたまらず胸元を抑えた。


切なくて、たまらなかった。


「せやけど、好きで好きでたまらんわ! 忘れられへん! 今でも、嵐のことが大好きやねん!」


「さっちゃん……」


と彼女は幸を抱き寄せたあと、そっと体を離して幸の涙を拭いた。


優しい口元が動く。


「ありがとう。ありがとうな。嵐を好いてくれて、あの子を愛してくれて、ほんまにありがとう」


そう言って、彼女はお洒落なトートバッグから、小さな白い紙袋を取り出した。