恋時雨~恋、ときどき、涙~

以前、順也が事故に合った頃。


静奈がこの幸のアパートで暮らしていた時、何度か顔を合わせたことがあるらしかった。


だから、彼女は静奈を覚えていたのだろう。


昨日、走り去った幸を追い掛けて行くと、短大の前で静奈に声をかけてきたらしい。


息子の事が落ち着いたので、大阪に帰ることにした。


でも、その前に、どうしても幸に会いたい。


でも、連絡がとれない。


どうにかして、幸に会えないだろうか、と。


大阪に帰る前に、どうしても幸に渡したい物があるそうだ。


泣き崩れる幸の背中を、彼女は優しくさすりながら言った。


「さっちゃん、会いたかったわ。心配してたんやで。電話に出てくれへんし」


彼女の唇を、わたしは夢中になって見つめた。


幸は顔を上げようとせず、ひたすら座り込んで泣いた。


「今日な、大阪に帰るんよ。せやけどな、その前に、どうしてもさっちゃんに会いたかってん」


わたしと静奈はその場に立ち尽くして、ふたりを見つめ続けた。


華奢な肩を震わせて、幸は泣いてばかりいた。


「さっちゃんは、困った子や」


幸の髪の毛を静かに撫でるその手から、優しさがにじみ出ている。


愛しそうに、彼女は幸の髪の毛を撫でた。


「こんなに痩せてしもて。全部、あの子のせいや。嵐のせいやんなあ」


ごめんな、と彼女が言った直後、幸は顔を上げてふるふる首を振った。