恋時雨~恋、ときどき、涙~

なんとなく跡を追うと、ちょうど幸がドアを開けたところだった。


「幸のバカ!」


ドアが開いたと同時に飛び込んで来たのは、静奈だった。


「電話にもでないし、メールも返してくれないし」


そこまでは唇を読むことができたけれど、その先は早口過ぎて無理だった。


背中を丸めた幸を抱き寄せ、静奈は大粒の涙をこぼした。


「良かった! 生きててくれて……心配で眠れなかった」


そう言った静奈の唇が、ひどく震えていた。


幸の肩越しに、静奈がわたしに気付いた。


わたしは、幸の背中を指差した。


〈幸は、もう、大丈夫〉


わたしと静奈は同時に微笑みを交わした。


「あ、そうだ」


と静奈が幸を離して、締まりかけていたドアを開けた。


誰だろう。


遠慮がちに玄関に入って来た女性を見た途端、幸は泣き崩れてしまった。


「さっちゃん」


女性の唇が、幸をそう呼んだ。


玄関で、大人の女性がわたしに会釈をしてきた。


わたしも会釈を返す。


誰だろう。


40代後半、といったところだろうか。


少しふっくらした体系で、やわらかそうな短い髪の毛。


よそ行きのきれいなツーピース。


優しげな目元。


全身からにじみ出ているやわらかなオーラ。


〈誰?〉


首を傾げたわたしに、静奈が両手で教えてくれた。


「幸の彼氏の、お母さん」