恋時雨~恋、ときどき、涙~

本当は200枚なんかじゃ、全然たりなかったんじゃないか、とわたしは思った。


それくらい、幸は彼を想っているのだろう。


「なんでやろな。なんで、人間はコピーでけへんのやろ。これみたいに、嵐もコピーでけたらええのに」


そう手話をしたあと、幸は何枚ものコピーされた遺書をかき集めて、きつく抱きしめた。


とてつもなく、愛しそうに、抱きすくめた。


「幸せになんかなれへんわ。縛られまくりや。こんな手紙残されたら、ますます忘れられへんやんか」


幸せになんかなりたないわ! 、と幸はたぶん叫んだ。


大きな大きな、口だった。


ねえ、幸。


心の中で話し掛けながら、幸を抱きすくめた。


幸の体は骨と皮だった。


神様って、本当に居るんだろうか。


どうして、こんなにいい子が、こんなにも切ない思いをしなければいけないのだろう。


わたしの腕の中で、まるで何かを吐き出すように、幸は泣いた。


しばらく泣いたあと、幸が両手を動かした。


「疲れてもうた。生きるのが、しんどいねん」



そう手話をしてテーブルに手を伸ばす幸を見て、わたしはぞっとした。


「しんどくてたまらん。せやからな……」


怖くて、動けなかった。