恋時雨~恋、ときどき、涙~

何、これ。


わたしは夢中になって、辺り一面に散らばった紙をかき集めた。


これも。


これも、これも……これも。


幸の周りを埋め尽くしていた紙には全部、全く同じ文章が綴られていた。


おそらく、コピーされた幸の彼氏の遺書だ。


幸……。


たまらず、幸の肩に触れようと手を伸ばした時だった。


幸が振り向いた。


わたしはとっさにその手を引っ込めた。


幸は、笑っていた。


「なにが、さち、やねん」


キャンドルライトの灯りに照らされながら、幸の両手が動く。


「ひとつも幸せやないわ。なにが「幸」やねん。ちっとも幸せやない」


こんな名前、大嫌いや! 、と乱暴な手話をして、幸は散乱した紙を両手で何度も何度も叩き付けた。


幸の口元が動く。


「なんも幸せやないわ!」


本当はさらさらで艶やかなはずの幸の髪の毛は、まるで山姥みたいだ。


ボロボロで、ぐしゃぐしゃだ。


泣きながら床を叩き付ける幸の手を、わたしは強く握った。


「真央」


ハッとした顔で、幸がわたしを見つめた。


そして、小さく笑った。


「真央は泣き虫やなあ……困ったさんや」


もらい泣きではなかった。


勝手に涙が溢れて、止まらなかった。


紙を一枚拾って、わたしは首を傾げた。


〈遺書?〉


幸が頷く。


「せや。200枚もあんねん。アホみたいやろ? コンビニで200もコピーしてん。うち、アホやんな」