恋時雨~恋、ときどき、涙~

「ちゃんと、待ってるんけな。真央が笑顔で戻って来るの、ここで待ってるんけ」


わたしは頷いた。


〈行ってくる〉


車を降りると、生温い夜風が頬を撫でていった。


幸の部屋の前に立ったとき、やけに緊張した。


へんなの。


春休みに、何度もここへ遊びに来ているはずなのに。


なぜだか、初めて訪れたかのようにわたしは緊張していた。


インターホンを押してみた。


でも、ドアが開くことはなかった。


もう一度、鳴らしてみる。


そして、しばらく待ってみた。


ドア横の曇りガラスに顔を近付けて、覗いてみる。


ぼんやりと、滲んだ灯りが見えるだけだ。


でも、幸が出てくるような様子はない。


居ないのかな。


それとも、壊れて鳴らないとか。


わたしはインターホンのボタンを睨んだ。


そんなわけないか。


いろいろ考えてから、一か八かでドアノブを回してみることにした。


幸の悪い癖を思い出したからだ。


いつも、ここへ遊びに来ると、いつも、不用心に鍵が開いていた。


幸が居る時は、鍵が開いているのだ。


ドアノブを回して引くと、開いた。