恋時雨~恋、ときどき、涙~

真央の友達だろ。


健ちゃんの大きな口の動きを読んだ時、ふと、思い出した。


初めて、幸と会話した日の、幸の一言だった。


『仲良うしてや』


耳が聴こえないわたしに、なにひとつ曇りのない屈託のない顔で、幸は笑った。


仲良くしよう、と幸は言ってくれた。


こんなわたしに、言ってくれた。


あの日のことを思い出したとたんに、不意に泣きたくなった。


わたしは、いつも、幸に救われてばかりだ。


わたしは、健ちゃんの手を握った。


ある。


幸に伝えたいこと、わたしは両手いっぱいにあるの。













幸のアパートまでは、車で20分ほどだった。


春休みに、静奈と何度か遊びに行ったことがある。


短大からそれほど遠くない、閑静な住宅街の真ん中にぽつりとある、学生向けの小さなアパートだ。


2階建てアパートの1階の奥が、幸の部屋だ。


アパートに横付けした車の助手席から、様子を伺ってみる。


どうやら、幸は部屋にいるようだ。


ぼんやりと、滲んだ灯りが見える。


肩を叩かれ振り向くと、行ってこい、と健ちゃんがジェスチャーした。