恋時雨~恋、ときどき、涙~

桜の木の下に立ち、枝の先を一本一本ていねいに見つめた。


不意に首を傾げていた。


おかしい。


まだ、どれも蕾なのに。


桜の花びらが飛んできたのに、どんなに探しても開花しているものはない。


指で摘まんだ桜の花びらをじっと見つめる。


この子、どこから風に乗ってきたのだろうか。


しばらく、わたしは蕾が開いているものはないかと、探し続けた。


でも、やっぱり蕾しか見当たらない。


もうすっかり暗くなって、ようやく、わたしは帰路についた。


とぼとぼと駅まで歩き、駅からはもっとペースを落として歩いた。


桜の花びらを握り締めながら。


アパートに到着してらせん階段を上り、部屋の前で立ち止まる。


わたしたちが暮らしている部屋のキッチンの窓から、灯りが漏れていた。


そして、カレーライスの匂いが鼻先をくすぐった。


ハッとした。


慌てて鞄からスマホを引っ張り出す。


なんてことだろう。


時刻を確認すると、とうに19時を過ぎていた。


わたしはスマホを握り締めた。


健ちゃんが、先に帰ってきちゃったんだ。