恋時雨~恋、ときどき、涙~

「ごめんね。私にとって、幸は、真央と同じくらい大切な友達だから」


そう手話をして、幸と、幸を追い掛けて行った中島くんを、静奈も追い掛けて行った。


でも、わたしにはできなかった。


追い掛けて行く気力がなかった。


ただ、芝生に寝転んで、呆然と春の空を見つめ続けた。


何も、手につかない。


ただ、青空を流れる雲が白くて美しくて、強烈に印象的だった。


わたし、とてつもなく、ちっぽけだ。











空が茜色になって太陽が傾くまで、ずっと、空を見つめ続けた。


もう、春の空におぼろ月が姿を現したのに、わたしは動かなかった。


春といえども、黄昏時の西風は少しひんやりする。


風が、仄かに強くなってきた。


その時、わたしの頬に薄くて優しい感触があった。


そっと、手のひらを頬に当ててみる。


何がが張り付いていた。


静かに指にとり、空にかざしてみる。


きれい。


桜の花びらだった。


ハッとして体を起こし、そして辺りを見渡した。


立ち上がり、桜の木の下へ向かう。


もう、辺りに人影はない。