恋時雨~恋、ときどき、涙~

幸。


手首を、切ったの?


1度じゃない。


もう、何度も。


幸……。


わたしはうつ向きながら、芝生の草をひとつ引っこ抜いた。


すると、幸の笑顔がひとつ、頭にうかんだ。


『真央! おはようさん! めっちゃええ天気やなあ!』


毎朝、思っていた。


幸はお日さまみたいだと思っていた。


晴れでも雨でも、曇り空の日でも、ええ天気やなあと手話をする幸。


幸の両手は、お日さまみたいだと思っていた。


草を、もうひとつ引っこ抜いてみる。


すると、幸の笑顔がもうひとつ、頭にうかんだ。


『真央はアホやなあ。うけるってもんやないで! なんやねん、寝癖ついとるがな』


毎日、思っていた。


幸はおひさまみたいだって、思っていた。


せやけど、寝癖もよう似合うとるで、と手話をする幸。


幸の両手はおひさまみたいだって、思っていた。


草を、もうひとつ、引っこ抜いてみる。


目の奥がぐつぐつ煮たっている熱湯のように、熱いことに気付いた。


『真央が助けを出しとるんやったら、うち、なんぼでも船出したるで! 遠慮せんで、言うてみいや』