恋時雨~恋、ときどき、涙~

静奈が驚いた顔で、2人に視線を飛ばした。


「しつこいっちゅうねん!」


執拗に拒む幸にお構い無しに、中島くんは幸の右手を掴んだ。


「見せたくないから、抵抗してるんだろ!」


「ちゃうわ! ええから、離してや! 嫌や言うてるやろ!」


「幸!」


ほんま、しつこいやっちゃ! 、と幸は腕をぶんぶん振り回した。


「なんやねん! しばくで、ほんまに!」


中島くんに腕を掴まれじたばたもがく幸は、地獄の砂穴にはまった蟻のようだ。


幸がこんなに嫌がっているのに。


幸を解放してあげたい、その一心で駆け出したわたしを止めたのは、静奈だった。


「真央」


わたしは静奈を睨んだ。


〈なぜ? 幸は、嫌がってる!〉


「待って、真央」


引き留める静奈の手をがむしゃらに振りほどいて、わたしは中島くんに飛び付いた。


〈幸、嫌がってるじゃない!〉


「えっ……あっ」


わたしの両手を見つめて、中島くんが固まった。


手話の意味が分からないからだ。


もどかしい。


こんな簡単な感情さえ、他人に伝えることが、わたしは難しい。


全身で表すしかできない。