恋時雨~恋、ときどき、涙~

ふと、幸の表情が緩む。


幸の華奢で小さな肩越しに、春の空が遠くに見えた。


「うちが泣いて戻って来てくれるんやったら、なんぼでも泣いたるわ」


真央かて、せやろ? 、と幸の両手が訊いてきた。


「泣いて、耳が聴こえるようになるんやったら、なんぼでも泣くやんな?」


それと同じや。


せやけど、泣いたってどうにもならんやないの。


くらーい空気振り撒いて、みんなのこともまきこんで、嫌な雰囲気にさせたないやんか。


笑うておったら、少しは気いがまぎれるやんか。


落ち着きを取り戻し始めた幸は、わたしの上に馬乗りになりながらも、優しい手話をした。


いや、違う。


優しい、とは違う。


かすれてしまいそうな手話だった。


幸の両手は、必死に、救いを求めていたのだ。


「もう……あかんねん」


たまらず、わたしは幸のジャケットの裾を掴んだ。


そうでもしないと、幸がさらさらの粉砂糖になって、この春の空に舞い上がって消えてしまいそうで、怖かった。


「お願いや。真央。助けて……うちを助けてえな!」