恋時雨~恋、ときどき、涙~

幸の目は、悲鳴をあげていた。


「うちのこと、忘れてくれてかまわんかったんよ。別に、忘れられても良かったんよ」


静奈が、わたしと幸のところへ駆け寄ってきて、泣きわめく幸を横から抱きすくめた。


わたしは、幸の手を強く強く握った。


幸の手が、尋常ではないほどに震え始めたからだ。


「ただ、生きとってくれたら、それで良かったんよ!」


幸が、わたしの手を振りほどこうとする。


「なんで! なんでやの? なんで、死ななあかんかったんよ!」


幸が壊れて、粉々になって消えてしまうんじゃないか、とわたしは不安でたまらなくなった。


怖かった。


震える幸の両手を、押さえつけるように握り締めた。


「なんで……うちのこと置いてったんよ……なんで、もう居らんのよ!」


そう叫んで、幸は静奈の細い腕の中で泣き崩れた。


春の陽射しが、桜の木ごとわたしたちを包み込むように照らし続けた。


優しいはずの陽射しを、なんて残酷だとわたしは思わずにはいられなかった。


生きていてくれるだけで良かったのに、と言った幸の唇の動きが、ずっと頭にこびりついて剥がれることはなかった。