恋時雨~恋、ときどき、涙~

「でも」


と、健ちゃんは右手の指先を上にした手のひらをわたしに向け、反転させて手前に向けた。


「でもな、真央」


胸がざわざわする。


健ちゃんの眉間に、しわが集まっていた。


わたしと健ちゃんを包む夜の空気が、やけに重く感じる。


「この先、何があっても」


そこで一度手話を詰まらせて、健ちゃんは息をついた。


つられるように、わたしも息を呑んだ。


どうしてこんなに緊張しているのか、本当に自分でもよく分からない。


健ちゃんは、右手のひらを上に向けお腹の前で構えると、胸の方へ上げながら、手を堅く握り締めるジェスチャーをした。


「信じて」


そして、親指と人差し指を開いて喉元を挟むようにあて、前に引き出しながら2本の指を閉じた。


「信じて、欲しい」


この先、何があっても、信じて欲しい。


健ちゃんの両手が、しっかりそう言った。


わたしは頷いて、健ちゃんがしたのと同じ手話動作をした。


〈信じる〉


わたし、健ちゃんを、信じる。


たとえ、この先、何があっても。


〈わたしは、健ちゃんを、信じる〉