恋時雨~恋、ときどき、涙~

すると、健ちゃんはその質問には答えず、


「こっちおいで」


とわたしを呼んだ。


健ちゃんの左隣に寄り添うと、健ちゃんはいつになく真面目な顔でわたしの顔を扇いだ。


「真央」


月明かりに照らされた健ちゃんの髪の毛が、きらきら輝いて眩しい。


わたしは瞬きをした。


〈なに?〉


健ちゃんは無防備な表情を一変させ、背筋をしゃんと伸ばして、改めてかしこまった。


まるで、告白をする人のように。


「きっと、この先も、何度も壁に当たって、限界だと思うことがあると思うんだけど」


この人と出逢って恋に変わるまで、たくさんの出来事があった。


笑った顔、怒った顔、困った顔。


たくさんの健ちゃんを見てきた。


恋に落ちて付き合うまで。


それから、恋人になってからも。


ころころ、目まぐるしく変わる健ちゃんの表情を、わたしは見てきた。


「何かがあるたびに、諦めようと思うかもしれないんだけど」


でも、今日ほど真面目な健ちゃんを、真剣な瞳を、わたしは初めて見たのかもしれない。


なぜだか、胸騒ぎを覚えるほどだ。


健ちゃんが、別の人に見える。