恋時雨~恋、ときどき、涙~

「真央は、おれの彼女だんけな。亘には、汐莉がいるじゃねえか」


「ごもっとも」


と笑い飛ばす亘さんを睨みながら、健ちゃんはぶっきらぼうにわたしの左手を掴んだ。


「勝手に手にぎって、見つめ合うんじゃねんけ」


ぷっくりと風船のように、健ちゃんはシャープな頬を膨らませた。


なぜか、不意に、亘さんと目が合った。


亘さんはいたずらっ子のように笑いながら、わたしに向かって口をぱくぱくさせた。


「でた、でた、でた」


なに? 、とわたしが首を傾げると、亘さんは楽しそうに言った。


「でた。や、き、も、ち、お、ば、け」


そう言って、健ちゃんを指さしてから、胸もとで両手首をだらりとぶら下げて、幽霊の真似をした。


わたしが笑う前に、なにー、と健ちゃんが亘さんに飛び付いて、2人は笑いながらじゃれ合った。


仲良しの猫の兄弟みたいだ。


亘さんは、本当は、とても無邪気に笑う人なのだ。


その事に、わたしは、たったいま気付いた。


「じゃあ、そろそろ果江のとこに戻るよ」


気を付けてな、と亘さんはエレベーターの方へ歩いて行った。


とてもすっきりした顔で。