恋時雨~恋、ときどき、涙~

胸がいっぱいだ。


「ぼくは偏見を持っていたのかもしれない。耳が聴こえない君に」


そう言って、亘さんはわたしの両手を強く包み込んだ。


胸がいっぱいだ。


「ぼくは、たくさんの人の手に触れてきたけれど」


わたしの胸はいま、きらきら輝く宝石がいっぱい詰め込まれて、爆発寸前だ。


「こんなに温かくて、言葉がたくさん詰まった両手に触れたのは、生まれて初めてだよ」


もう、胸がいっぱいで限界だ。


「真央ちゃんの手は、宝石箱みたいだね」


亘さんが、悪い。


亘さんのせいだ。


今日ほど、自分のこの両手をちっぽけに感じたことはないかもしれない。


亘さんの手の方が遥かに優しくて温かくて、だから、わたしは泣きそうになった。


やっと、亘さんと分かり合えたような気がして、わたしの胸はいっぱいだ。


わたしと亘さんが笑い合っていると、いきなり、真横から大きな手がにょきりと伸びてきて、わたしと亘さんの手をほどいた。


「なにやってるんけ」


とてつもなく不機嫌な顔の、健ちゃんだった。


まったく、油断も隙もねんけ、と健ちゃんは亘さんを睨んだ。