恋時雨~恋、ときどき、涙~

顔を上げて振り向くと、病室に亘さんが入って来ていた。


「果江」


亘さんは、果江さんが座るベッドの横にしゃがむと、穏やかに話し始めた。


「もういいんだ。もう、何も我慢する必要ない」


「別に我慢なんか」


果江さんの目に、再び涙が溢れ始めた。


「強がる必要もないよ。果江」


「別に……私は」


「おれは、果江を重荷に思った事はないよ。一度も」


気のせいだったのかもしれない。


一瞬、亘さんと目が合ったような気がした。


とても優しい目だった。


「おれは、信じるよ。果江が元気になるって」


だから、手術うけないか。


亘さんの一言に、果江さんが反応した。


「きっと、またうまくいくよ」


「でも」


果江さんは執拗に首を横に振った。


「手術がうまくいったとしても。もう、私の居場所はどこにもないもの」


すると、亘さんはスーツのポケットから一枚の紙を取り出した。


真っ白な紙は、二枚に折り畳まれていた。


「なに、これ」


果江さんが首を傾げた。


「これ。果江のお母さんから預かっていたんだ。果江が目をあけたら、渡してくれって」