恋時雨~恋、ときどき、涙~

手術を受ければ治る確率がある、耳が聴こえる、この人が。


ただ、わたしは羨ましかっただけだ。


だって、わたしは、わたしの耳はどんな手術を受けたとしても治ることはないのだ。


決して、ない。


うつ向いて唇を強く噛んだ時、果江さんがわたしの肩を叩いてきた。


「不公平な世の中ね」


顔を上げると、果江さんはとても優しい目をしていた。


「私と」


と果江さんは自分の胸を指差したあと、


「あなた」


とわたしの耳に触れて、


「ふたりでひとりだったら、ちょうど良かったのにね」


そう言って、小さく、小さく小さく笑った。


わたしは頷いた。


わたしと果江さんは目を合わせたあと、同時に泣いた。


手を繋ぎながら。


本当に、不公平にもほどがある世の中だ。


どうして、わたしの耳は僅かな音すら拾うことができないのだろう。


どうして、果江さんの心臓は、こんなにも彼女を苦しめるのだろう。


窓の外では、優しいわた雪が降り続いていた。


突然、果江さんが弾かれたように顔を上げてドアの方を見つめた。


誰かが入って来たらしかった。