恋時雨~恋、ときどき、涙~

「私にはできなかった。彼は、あんなにも信じてくれと言ったのに」


どうして、信じてあげることができなかったんだろう。


そう言って、果江さんはわたしの手を握ったまま、まるで子供のように泣いた。


不思議だった。


繋いだ手から、どんどん、どんどん、次から次へと果江さんの感情が注がれてくるような感覚を覚えた。


「だって、怖くて。ただ、死ぬことが怖くて。次、手術を受けたら、もう、私はこの世に居ないんじゃないかって」


その感情はとてつもなく切なくて、苦しくて、ただ切なかった。


力を無くした果江さんの手をそっと離して、わたしはボールペンを握った。


【もう一度、信じればいい
 何度でも、信じればいい】


メモ帳を見た果江さんは、泣きながらわたしを指差した。


「あなたになりたかった」


わたしは首を傾げた。


なぜ?


わたしは、耳が聴こえないのに。


好きな人の声すら、聴くことができないのに。


一生、できないのに。


「あなたみたいに、全身で想いを伝えてみたい。走って、走って、全力で走って」


何もかも振り落として、振り切って。


「大好きな人の胸に飛び込んでみたい」