恋時雨~恋、ときどき、涙~

果江さんに手話が通じないことは、分かっているのに。


それでも、わたしは両手を動かし続けた。


愛してる、と、伝えて下さい。


目の前が霞み始めた。


わたしは、無我夢中だった。


何度も同じ手話動作を繰り返すわたしの手に、果江さんの手のひらがそっと重ねられた。


「どうして、あなたが泣いているのよ」


マシュマロのようなやわらかい微笑みを、果江さんは浮かべていた。


「初めて会った時から思ってたんだけど。あなた、へんな子ね」


ハッとして頬に触れて初めて、自分が泣いていることに気付いた。


「それ」


と果江さんが、わたしの両手を指差した。


果江さんが、今、わたしが繰り返した手話を真似て両手を動かした。


左手の甲を、右手のひらで2回なでまわす。


そして、果江さんは言った。


「これ、どんな意味があるの? 教えて」


わたしは、メモ帳にボールペンを走らせた。


【あいしてる
 あいしてると、伝えて下さい】


メモ帳を見せて、もう一度手話をしてみせると、果江さんは首を振った。


「伝えたい。でも、できない。怖いから」


【こわい?】