恋時雨~恋、ときどき、涙~

そう言って、果江さんは薄手の毛布を剥ぎ取り、病衣を捲り上げて、わたしにその傷跡を見せた。


陶器よりもきめ細やかな白い肌。


すらりと長い右足。


その太ももに刻まれた、大きな傷跡。


みみず腫のような傷跡を人差し指でなぞって、果江さんは言った。


「これ。わたしの、唯一の自慢なの。この傷跡しか、自慢できるものがないの」


女の勲章よ、と言った果江さんは、とても穏やかな表情をしていた。


「この傷跡はね……」


説明がなくても、その傷跡の事なら分かっていた。


見た時に、すぐに分かった。


高校生の時、亘さんをかばってできたものだと。


でも、わたしは知らなかったふりを続けた。


果江さんがとても楽しそうに話し続けるものだから。


初めて聞いたと言わんばかりに、知らなかったふりを続けた。


「私、嬉しかったの。この傷が消えないって分かったとき、とても嬉しかった」


【どうして?】


メモ帳を見せて首を傾げてみせると、果江さんはにっこり笑った。


わたしはとっさに胸を押さえた。


わたしの心の中うさぎたちがぴょんぴょん飛び跳ねる。


わたしは、果江さんの笑顔に嬉しくなった。


「亘を守ってあげられたことが、嬉しかった」


と果江さんはもう一度、傷跡にそっと触れた。