恋時雨~恋、ときどき、涙~

【話って?】


メモ帳を差し出しながら細い肩を叩くと、果江さんがゆっくりと振り向いた。


顔色を見て、少しほっとした。


紅粉をはたいたように、頬に少しだけ赤みがさしていた。


メモ帳を見つめる果江さんの目は、やっぱり美しかった。


長い睫毛。


漆黒色の瞳。


「どうして?」


果江さんの唇が動いた。


「どうして、わたしを助けたの」


鋭い目付きで、果江さんは私を見つめてきた。


真っ直ぐで吸い込まれそうなくらい、果江さんの目は疑問を投げ掛けて来る。


「ほっといてくれたら良かったのに。ほっといてくれたら、死ねていたかもしれないのに」


ボールペンを握る手が震えた。


それは怒りなのか悲しみなのか、よく分からなかった。


【死にたかったの?】


メモ帳を突きつけて、わたしは果江さんを睨み返した。


先に目を反らして小さく笑ったのは、果江さんだった。


「もう」


小さく動く果江さんの唇を、わたしは舐めるように凝視した。


「もう、よく分からない。どっちでもいい」


【そんなこと言わないで欲しい】


メモ帳を見せると、果江さんはまた力弱く笑った。


「死ぬのは、正直、そんなに怖くない。でも、生きて行くことことは正直、とても怖い」