恋時雨~恋、ときどき、涙~

もう一度、わたる、と言ったあと果江さんは瞼を閉じてしまった。


わたしの腕を凄まじい力で握ってきたのに、その力は次第に弱くなっていく。


果江さんの右手を、わたしは掴み返した。


しっかり掴んでいないと、するりと抜け落ちてしまいそうだった。


わたしの腕の中で、果江さんの呼吸が一段と激しくなった。


どうしよう、どうしよう。


わたしはパニックになった。


苦しむ果江さんを壁に持たれかけさせ、わたしはリビングに引き返した。


救急車!


救急車を呼ばなきゃ!


ファックスと兼用の電話の受話器を取り、ボタンを押そうとして、わたしは固まった。


バカだ。


耳が聴こえないわたしに、話すことができないわたしに、どうやって救急車を呼べというのだろう。


だめだ!


わたしは乱暴に受話器を叩き付けた。


リビングをうろうろしたあと、スマホを掴んだ。


ライン!


スマホの画面をタップして、わたしはまた固まった。


一体、誰に?


救急車を呼んで下さい、とラインするだけなのに。


一体、誰にすればいち早く呼んでもらえるのだろう。


状況も説明しなきゃいけないのに。


ラインじゃ遅すぎる。


ラインなんかじゃ……。