恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、確かに、その唇の動きを読んだ。


リュウジ。


あれは、もしかして、果江さんが愛したという人の名前じゃないだろうか。


アメリカで恋に落ちたという人の名前じゃないだろうか。


わたしは、果江さんから目が離せなくなっていた。


果江さんは、とても愛しい人を見つめるような優しい目で、窓の外に広がる空を見つめていた。


その横顔はあまりにも美しく繊細で儚くて、言葉をかけてはいけないような気がした。


もしかして、果江さんはこの空の向こうに、アメリカの面影を重ねて見つめているのかもしれない。


なぜか、そう思わずにはいられなかった。


もしかすると、これはわたしの勝手な想像に過ぎないのかもしれないけれど。


果江さんは、まだ……。


もしかすると、本当は日本じゃなくて……。


もしかして……。


わたしはメモ帳にボールペンを走らせたあと、果江さんに差し出した。


【本当は
 アメリカに帰りたい?】


それを読んだ果江さんは、強い目つきでわたしを睨み付けた。


「そんなわけないじゃない!」


そう言って、メモ帳を押し返してきた。