恋時雨~恋、ときどき、涙~

何よりも、健ちゃんが一度は好きになった人なのだから。


健ちゃんは、本当に意地悪な人を好きになったりするような人じゃないと思う。


「あの日、亘とひどいケンカになったの」


果江さんが悲痛な面持ちで、口を動かす。


「果江の居場所は、もうここにはないって言われた」


わたしは胸を押さえた。


まるで、自分が言われたような、不思議な痛みがあった。


「病院を飛びだしたのはいいんだけど、わたしが頼れる人は、健ちゃんしかいなかった」


と、果江さんは肩をすくめた。


まるで、捨てられた子犬のように悲しい目をしている。


「亘がわたしを心配してくれているのは、すごくよく分かるし、感謝してるの。でも、亘は何も分かってない」


とてもさみしい顔で果江さんは話続けた。


「ここには果江の居場所はないって、亘は言っていたけど。アメリカに戻ったって、同じ。わたしには居場所なんてないの」


自分でも驚いた。


わたしは、果江さんに共感した。


わたしも、いつも同じことを思っていたのだから。


耳が聴こえないわたしに、居場所なんてない。


いつも、そう思っていた。