恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしは、その時に限ってうっかりしていた。


いつも必ずしていることを、忘れていた。


『いつ、誰が来るか分からねんけな。安易にドアを開けたらだめだんけな。必ず、覗き穴で確認すること』


大人の女の常識だんけな、と毎日、口酸っぱく健ちゃんに言われているのに。


幸せが続いていたせいか、わたしはうっかりしていた。


この時間に来るとすれば、静奈と順也しかいない、と勝手に決め付けてしまっていた。


急いでドアを開けて、そこに立っていた人と目が合ったとたんに、わたしは固まってしまった。


「無用心ね。こうやって、簡単にドア開けちゃうんだ」


少し冷たい笑顔でそう言ったのは、以前より少しだけ痩せた姿の果江さんだった。


以前より頬が痩けてしまったものの、果江さんの美しさは全く変わりない。


白木蓮のように色白で、陶器のような肌。


スプリングコートに身を包んだ果江さんは、まるで雑誌のモデルさんのように美しい。


わたしは、へんに緊張した。


手に大量の汗を握っていた。


「本当だったんだ」


少し早口の果江さんの唇を、わたしは必死に読みとった。