恋時雨~恋、ときどき、涙~

そういうわけにはいかない。


中島くんのお父さんがわざわざ朝早起きをして、漁港に買い付けに行った貴重なものなのに。


わたしは首を横に振って、財布を取り出そうとした。


でも、中島くんはそれを頑なに拒んだ。


「本当に、いいから」


そう言って、今度は小さなメモ用紙をわたしに差し出してきた。


「これ、メバルのレシピなんだけど。良かったら、参考にしてよ。彼氏に作ってやって」


それは、メバルの甘辛醤油の煮物のレシピだった。


材料から隠し味まで、丁寧に書いてある。


「たまには、こういう純和食もいいもんだよ。男ってさ、意外と好きなんだ。和食」


その言葉に、わたしはさっそく食い付いた。


男ってさ、意外と好きなんだ。和食。


そう言えば、最近はカレーライスだのパスタだのと、洋食が続いていたのだ。


ちょうどいいかもしれない。


わたしは、中島くんの右腕を叩いた。


〈ありがとう〉


ありがとうだって、と静奈が訳すと、中島くんは「ああ」と嬉しそうに笑った。