恋時雨~恋、ときどき、涙~

中島くんの唇を読んで、ハッとした。


そうか。


そういえば、中島くんの実家は魚屋さんだっけ。


「この時期のメバルは脂がのっていて、最高なんだ。でも、わりと淡白な味だから、どんな調理法でも最高なんだよ」


わたしは、思わず笑ってしまった。


普段は無口で無表情の中島くんが、こんなに生き生きと楽しそうに話す姿を、わたしは初めて見た。


隣で、静奈も笑っている。


「中島。あんた、栄養士じゃなくて、魚博士になった方がいいよ」


冗談めかして言った静奈を見て、中島くんは「あ」と恥ずかしそうに頭を掻いた。


「ごめん。おれの家、魚屋で、つい」


「ああ、そうだったね。じゃあ、今日から魚屋しゅんちゃんて呼ばせてもらうわ」


静奈が笑うと「それは勘弁してよ」と中島くんは照れくさそうに笑った。


静奈と談笑している中島くんの肩を叩いて、わたしは手話で訊いた。


〈いくら?〉


「え……何?」


と首を傾げた中島くんに、静奈が通訳をした。


バッグから財布を取り出そうとしたわたしの手を、中島くんはそっと押さえた。


「いいから。今日は特別。同じ夢を志している友人から、金はとらない主義なんだ」