恋時雨~恋、ときどき、涙~

ひどい!


わたしは怒ったふりをして、右手を振り上げる仕草をした。


「真央がキレたんけ!」


でも、健ちゃんは大きな口でわははははと無邪気に笑っていた。


わたしは、この笑顔に弱い。


そして、健ちゃんはわたしの額にでこぴんをした。


「ほら、何か言うことあるだろ?」


言うこと?


わたしが首を傾げると、健ちゃんはちょっぴりいじけた顔をした。


「一緒に暮らすんけ。この部屋で。何か言うことあるだろ?」


ああ、そっか。


わたしは笑いながら、お辞儀をした。


〈今日から、お世話になります〉


わたしの両手を見た健ちゃんは、不機嫌な顔になってしまった。


「違うんけ」


わたしは手話をし直した。


〈今日から、よろしくお願いします〉


「ますます違うんけ」


と手話をして、健ちゃんはほっぺたを風船のように膨らませた。


「それじゃ、この部屋に入れることはできねんけな」


お世話になります、はだめ。


お願いします、は違う。


わたしはだんだんイライラしてきた。


わたしは感情を言葉にできない分、態度と表情であからさまに表す。


それに気付いたのか、健ちゃんは笑った。