恋時雨~恋、ときどき、涙~

「行こう。時間だよ」


お父さんはお母さんの肩を抱いて、健ちゃんに頭を下げると、


「真央を、よろしく。何かあったら、いつでも連絡して」


とだけ告げて、背筋をしゃんとしたまま、新幹線に乗り込んだ。


お父さんがものすごく我慢していることが分かった。


背筋をしゃんとしているときのお父さんは、何かをぐっと堪えて強がっている時。


いつだったか、お母さんが教えてくれた。


健ちゃんが、今にも新幹線に飛び乗りそうなわたしの肩を叩いた。


「ほら、あそこの席だ」


と健ちゃんは数メートル離れた新幹線の窓越しへ、わたしを連れて行った。


透明なガラス越しに、涙ぐむお母さんの顔があった。


やっぱり、少し、わたしと似ていた。


健ちゃんが、わたしの脇腹を小突いた。


「もう、しばらく会えなくなるんけな。伝えときたいこと、ない?」


もうじき、発車してしまうんけ、と健ちゃんは大急ぎの手話をした。


わたしはガラスを爪で軽く叩いた。


お母さんとお父さんが、同時に、弾かれたように顔を上げた。