恋時雨~恋、ときどき、涙~

「お母さんの忘れ物は、真央よ」


そして、わたしを健ちゃんに押し出して、お母さんは健ちゃんに言った。


「私の大事な忘れ物。申し訳ないけれど、3年間、預かって下さい。よろしくお願いします」


そう言って、深々と頭を下げた。


健ちゃんは、さりげなくわたしの手を握って、


「心配しないで。必ず、大切に預かります」


だから、安心して行ってらっしゃい。


と健ちゃんは笑った。


お母さんが「あ」と口を開けて、上を見つめた。


健ちゃんがわたしの肩を叩く。


〈出発の時間だんけ〉


出発時刻を知らせる音が鳴っているらしい。


お父さんが大きなボストンバッグを持ち上げて、お母さんの肩を叩く。


「時間だ。行こう」


お母さんは頷いて、わたしをもう一度だけ抱き締めた。


離れたくなかった。


離れれば、あと3年間はお母さんに抱き締めてもらえない。


わたしは、19歳という衣装を着た、幼い子供のままだ。


いつまでもお母さんに甘えて、この温かさに包まれていたい。


短い時間の中で、わたしの記憶が走馬灯のように蘇った。