恋時雨~恋、ときどき、涙~

健ちゃんの肩越しに、お母さんの笑顔が見えた。


わたしも笑った。


だって、お父さんは慌てた様子で、健ちゃんとわたしを引き離して、顔を真っ赤にしているのだから。


「待て! いかん! 健ちゃん。間違いだけは起こすんじゃないぞ」


「間違いって」


健ちゃんがきょとんとした顔をすると、お父さんはほっぺを沸騰させながら、健ちゃんの首ねっこをつまみ上げた。


「間違いは間違いだ! 分かったね?」


「はい!」


健ちゃんは、終始たじたじだった。


わたしの部屋に戻るなり、健ちゃんが後ろから抱き締めてきた。


体を離すと、健ちゃんは言った。


「真央は、東京に行く事を選ぶと思ってたんけ。だから、正直、怖かった」


〈怖い? どうして?〉


首を傾げたわたしに、健ちゃんは照れくさそうに笑った。


「真央と離れるなんて、嫌だったんけな。だから、怖かった」


そう手話をして、健ちゃんはそっとわたしに歩み寄ってきた。


わたしは、お姫様になった気分だった。


健ちゃんが言った。