恋時雨~恋、ときどき、涙~

わたしはそっと目を閉じた。


瞼の裏に現れるのは、いつもどんな時も明るいお母さんの笑顔だった。


涙が溢れそうなのをやっとの思いで堪えて、わたしは順也にベンチコートを羽織らせ、肩を叩いた。


順也の優しい眼差しと、目が合う。


〈ひとつ、訊いてもいい?〉


「いいよ」


微笑みながら、小さく、順也は頷いた。


〈もし、わたしが東京へ行くと決めたら。順也は寂しい?〉


「当たり前だよ」


順也は肩をすくませて苦笑いをした。


「寂しいに決まってる。小さい頃から、毎日、家族のように生きてきたんだから」


わたしは、涙で滲む目をこすった。


〈もし、わたしが東京へ行ったら。順也は、3年間、わたしの帰りを待っていてくれる?〉


こんなどうしようもない妹を、兄は待っていてくれるだろうか。


順也がしっかりと頷いた。


わたしは、小さく覚悟をしながら両手に力を込めた。


〈もしも。わたしが、東京へ行くという道を選ぶと言ったら?〉


わたしの両手を見つめたあと、順也は少しだけうつ向いて、でも、またすぐに顔を上げた。