恋時雨~恋、ときどき、涙~

「健太さんは、ものすごく悩んでいたよ。真央を東京へ行かせるべきか。自分の側に置いておくべきか」


わたしは、深呼吸をした。


空っぽの胸いっぱいに空気を吸い込んで、初めて気が付いた。


いつの間にか体育館は空っぽになり、殺風景になっていた。


どのくらい泣き続けて、順也を巻き込んでいたのだろうか。


さっきまで広いコートを車椅子で駆け回っていた順也のチームメイトたちの姿はなく、練習が終わっている。


天窓を見上げると、もう外は暗くなっていた。


順也はわたしにベンチコートを羽織らせ、両手を動かした。


「真央のお母さんは、本当に真央を愛しているんだね」


順也の両手に、いつもより優しさがこもっていた。


「自分の事より、娘の将来を誰よりも考えて出した、真央のお母さんの、精一杯の答えなんだと、ぼくは思うんだ」


わたしは、ひとつの手話をしてみた。


人差し指で右の頬をひとつ下へなぞる。


そして、右手の小指を立てた。


お母さん。


いつも、どんな時も一番にわたしを最優先してくれる。


お母さん。


大好きなお母さん。