恋時雨~恋、ときどき、涙~

何よりも、短大があと1年残っている。


あの子が必死に努力して、ようやく入れた学校なの。


親として、中途半端にはさせたくない。


あの子の将来がかかっているんです。


栄養士の資格があれば、耳が聴こえないあの子でも、社会に出られる確率が上がるはず。


その芽を摘み取りたくない。


お母さんのその必死のお願いに、健ちゃんは肩をすくめたらしかった。


「すぐには答えは出せません。少し、考えさせて下さい。安易に出してはいけない返事だと思うから」


それが、その時に出せる健ちゃんの答えだったそうだ。


その日から、健ちゃんは悩んだのだろう。


毎日、明けても暮れても、猛烈に。


あの日、健ちゃんの誕生日にアパートへ行ってびっくりした。


いつも小綺麗にしてある部屋が、掃除ひとつした跡もなく、ぐちゃぐちゃに散らかり放題だった。


掃除にまで手が回らなかったのだろう。


それくらい、健ちゃんは悩んだのだと思う。


だから、できるだけ家にいたほうがいい、とわたしに告げたのではないだろうか。


「真央」


順也が、わたしの顔を仰いだ。