恋時雨~恋、ときどき、涙~

同棲しよう、と健ちゃんは言った。


同棲。


健ちゃんと、一緒に、暮らす。


気を使ったのだろう。


健ちゃんの肩越しに、極さりげなく、部屋を出ていく静奈の姿が見えた。


「真央」


わたしの名前を言いながら、健ちゃんはわたしの顔を扇いだ。


仄かに、健ちゃんの匂いがした。


「おれ、迷ってたんけ。真剣に悩んだ」


手話を続ける健ちゃんを、わたしはじっと見つめた。


「まだ20歳だし。仕事でも失敗することあるし。稼ぎもそんなにいいわけじゃねんけ」


健ちゃんの大きな手のひらが、わたしの頬をやわらかく撫でる。


やっぱり、この人の手がたまらなく好きなのだと、痛いほど実感した。


「だから、こんな半人前なのに、真央を守っていけるのかって。責任持って、預かることができるのかって」


わたしは、たまらず眉間にしわを寄せた。


預かる?


その言葉に、引っ掛かった。


健ちゃんの顔を手で扇いで、すばやく両手を動かした。


〈ちょっと待って。預かる、って〉


わたしが手話を続けようとすると、健ちゃんはわたしの両手を握りしめて、唇を大きく動かした。


わたしが読みやすいように、ゆっくり。


とてつもなく、真剣な面持ちで。


「今日は、その事で、話があって来たんけ。下で、真央の父ちゃんと母ちゃんが、待ってる。行こう」


わたしは混乱した。


何がどうなっているのか、理解できなかった。