恋時雨~恋、ときどき、涙~

最低。


自分がとてつもなく嫌な人間に思えて、たまらなく恥ずかしかった。


なんて心の狭い、独りよがりな人間なのだろう。


きっと、順也だってそう思っているに違いない。


さすがの順也も、とうとう、わたしに愛想を尽かしたかもしれない。


恐る恐る顔を上げると、順也はやわらかく微笑んでいた。


真央、と順也の唇が言った。


うん? 、と首を傾げて見せたわたしに、順也はひとつひとつの言葉を繋ぎ合わせるように、丁寧に手話をした。


「真央ひとりだけが苦しんでいると思わないで。もしかすると、健太さんは、もっと、苦しいのかもしれない。真央より、もっと」


順也の手話は、わたしの胸に深く突き刺さった。


「真央だけが苦しいわけじゃないんだよ」


順也の手話を見ていると、不思議なほど心が浄化されていった。


「時には、嘘が必要なことがあるんだと思うよ」


〈必要な嘘なんてあるの?〉


わたしが訊くと、順也はしっかりと頷いた。


「あるよ。特に、守りたいものがあるのなら、なおさらだよ」


わたしは、とんだ非常識者だ。


わたしは、何も分かっていないふりをして、分かろうともしていなかったのかもしれない。


「健太さんが嘘をつくなんて、きっと、とても悩んでいる事があるのかもしれないね」


順也がした手話の意味を、わたしはまだ分かっていなかった。


冬の月は、儚いのにとても濃い色をしている。


わたしと順也は、澄んだ冬の夜空を見上げて、たぶん、同時に空気を吸い込んだ。